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笹寿司を食べていたあの頃

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浅羽さんとDiaryさんが始めた「竹、笹リレー」

さて、私は竹製のお道具は全然持っていないので、笹にまつわる思い出で書かせていただきます。


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都心のデパ地下で久しぶりに笹寿司を買った。

これを食べるのはもう何十年ぶりだろう。かすかに笹の香りのする小ぶりの寿司はあの頃とちっとも変わっていなかった。

この寿司は私にとって忘れがたい思い出がある。少し話が長くなるのだが。



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大学を卒業して舞台女優を志していた私は六本木にある小さな劇団の研究生になった。

まだ名も知られぬ劇団だったが、同期生に高田純次やイッセイ尾形、ベンガル、数年前にバイク事故で亡くなった萩原流行などがいた。先輩には柄本明さんや笹野高史さん。そして、大先輩に吉田日出子さんがいた。

その時代は我が人生の中でもっとも不安定な時期だったが、同時にもっとも輝いていた時期でもあった。ろくにお金もないのにみんなで芝居への夢を語り、毎日燃えていた。怖いものは何もなかったし、ただただ若かった。

高田純次がこの頃の思い出話として、「六本木で先輩にご馳走になり、楽しくて終電を逃した。タクシー代がないので町田の方まで歩いて帰った」と雑誌などに書いている。本当にこの頃の私たちはこのエピソードに代表されるような出たとこ勝負の生活をしていた。

入団1年後に高田純次たちと別の劇団を作って独立しようとした。しかし旗揚げ公演が失敗してすぐに解散となり、私は何か仕事を探さなければならなかった。



演劇で挫折したこともあり、子供の頃からなりたかった新聞記者を目指したが、当時は女性には狭き門。雑誌や書籍の編集者さえなかなかなれなかった。

仕方がないので出版界に仕事が決まるまでアルバイトをすることになり、劇団時代の同期生が紹介してくれたのが、笹で包んだ寿司を作っている日本料理店だった。

私の仕事は都心のデパートにある出店の売り子。大学卒業後にすぐ演劇の世界に入ったため、社会性も身についておらず、お釣りや商品を間違えてお客様を怒らせたりもしていた。



そんな危なげな社会人一年生を優しく見守ってくれたのが年上のパートのおばさま達と5才年上の店長だった。

店長はその日本料理店の経営者の長男でゆくゆくはお店を継ぐはずだったが、当時はまだ人生の様々な選択肢を探していたようだ。

良家の子弟を集め、個性的な教育をすることで有名な都下の一貫校から渋谷のA学院大学を卒業。どちらかというと軟派で都会的な男だった。

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何となく意気投合して仕事の後で赤坂のディスコに行ったり、休みの日に湘南の海で遊んだりした。そんなふうに2年間くらいはプライベートなお付き合いを続けた。

よく、売れ残った笹寿司を持ち帰り2人で食べたこともある。いつもただ美味しく食べる私を尻目に彼が味の工夫や新たな商品について熱く語るのをぼんやりと聞いていた。
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私としては年齢からしてそろそろ結婚してもいいかもと思いその意思を伝えたこともあったが、彼はいつものらりくらりとしていて話が進むことはなかった。そのくせ彼の実家にも遊びに行ったし、ご両親にも紹介されていた。いったい私のことをどう考えているのかと悩んだこともある。

出会ってから1年ほど経った頃だったろうか。彼は突然ファッションの仕事がしたいと家業から離れ、社名は忘れたが中堅どころのファッションメーカーに勤めた。

私は相変わらず都心のデパートにある出店でアルバイトしていたが、3日に一回くらいは仕事が終わるとデートしていた。

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ファッション関係の会社に勤めたからといって、彼はおしゃれになったわけでもなく、特に変わった様子は見られなかった。業界にずっと勤める気があるわけではなく、家業を継ぐ前にちょっとした冒険をしているのだろうと私は思った。

けれど一回だけ「おや?」と思わせられることを言われたことがある。

「君はまずまずの容姿なのになぜもっとおしゃれをしないの?おしゃれをすればもっと綺麗になるのに・・・」

確かにその頃の私は洋服に無頓着だった。というよりは親の反対を押し切ってアパートを借り一人暮らしをしていたから、毎日の暮らしが精一杯でいい洋服を買う余裕などなかったといっていい。いつもジーンズにシャツかセーター(今でもそうだが??)。それもくたびれたものが結構あり、おしゃれとは程遠い暮らしだった。

ただ、他を節約して洋服を買えないわけではなく、彼の言葉を聞いてから少しずつきれいめの格好をするように心がけた。劇団時代の仲間に会うと「変わった。綺麗になった」と言われまんざらでもなかったと記憶している。

「おしゃれをしたい」という気持ちはその頃から芽生えてきたように思う。




出版関係の仕事はチャンスがあると様々な会社を受けていたが多くは失敗。25歳の9月に六本木にある小さな出版社がやっと採用通知をくれた。

日本料理店のアルバイトをやめ、念願の出版の仕事を始めてからしばらく経った頃、いつしかどちらからも連絡をしなくなり、彼とは会わなくなった。

数年が経ち、アルバイトを紹介してくれた劇団仲間から彼がファッションメーカーの同僚と結婚し、子供が生まれたという話を聞いた。

その頃私には新しい恋人がいたこともあり、そんなにショックは受けなかったが、ふと彼の笑顔が懐かしかったことを強烈に覚えている。

その後何回か、都心に出ると笹の寿司を買い家族と食べたことはある。バブルの頃は日本料理店がいろいろなところに出店し、懐石料理などを供していることも知っていた。たまには店を訪ねて彼を驚かせてやろうかと思ったこともあったが、仕事の忙しさに紛れて実行はしなかった。

ただ、ネットで見るとしばらくは代表取締役の欄に彼の名前があった。
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「竹、笹のリレー」を知った時、もう一度あの笹寿司を食べてみたいと思った。

新型コロナウィルス感染が東京で広がっていることもあるのかもしれない。土曜日の午前中のデパ地下は空いていた。笹ずしを売っているコーナーも私が勤めていた時とはまるで別の場所にあり、少し大きくなっていた。

家に帰り、買ってきた寿司を包装を解くのももどかしく、口に入れた。あの頃と全く変わらない笹の香りが口いっぱいに広がった。


同時にネットで会社概要を見て彼の名前を探した。

しかし、代表取締役には彼の妹さんの名前があり、他に検索をかけてもどこにも彼の名前は見当たらなかった。

生きていれば今年75歳になるはずだ。

今更会いたいとは思わないが、元気でいてくれればいいなあと願っている。







Commented by uransuzu at 2020-07-05 09:56
すぐにはコメントできないほど、じんわりと小春さんの想い出に浸っています。
若き日の苦労は苦労でなく、夢にあふれ、人の言葉にも左右され、良くも悪くも影響を受ける。
その方が元気でいらして、昔話ができる日があるといいですね。
Commented by Grace-K52 at 2020-07-05 11:12
あの時代のこと、思い出しました。
本当に若さと夢だけはたくさんあるのに、現実はもどかしいことばかりで、毎日生きることに一生懸命でしたね。
その頃に出会った人たちは、時には辛い思いもあったけど、同志のようにも思えます。今では消息不明な方たちばかりですが、どこかで元気にしていてくだされば……と願っています。

しかしあの時代の憂鬱の元は、恋愛ではなく仕事だったわー。好きな業界の片隅に身を置いただけで、人生の大半が定まった気がしたもの。ま、その後、いろいろあったけどね。

良いお話を読ませていただき、有難うございました。
Commented by kitaoni at 2020-07-05 11:25
若い頃を思い出して.....
胸が痛くなりました。
ちょうど先ほどfacebookで福澤幸雄のベスト映像を集めてカルメンマキがテーマ音楽を歌ったYoutubeを観て胸を熱くしていたところでした。小春さんのブログとイメージが重なって想いが時代を遡りました。
Commented by bondgirl333 at 2020-07-05 11:57
読み終えて、眼に浮かぶような小春さんの青春。
涙ぐみそうになりました。
平和で夢いっぱいでありながら、少し不安もある若い頃。

今、又、輝いている小春さんを眩しく感じます。
Commented by koharu50 at 2020-07-05 13:02
> てぶくろさん
確かに若き日の苦労は苦労ではなく楽しいことの方が多かった。
今はそうはいかないけれど、何事も楽しむことが第一と思っています。
彼とは昔話などしたいですが・・・。
Commented by koharu50 at 2020-07-05 13:08
> グレちゃん
そうですねえ。若き日に苦労を共にした人(しない人も)の消息は私もほとんどわからなくなっています。学校のお友達の中には今日までお付き合いが続いている方々もいますが。

確かに恋愛より仕事が全てになっていったわね。グレちゃんは好きな業界のいいところにいったと思うわよ。私は小さいところだったので苦労が絶えなかったけれど。ただ、小さいので人間関係の苦労はあまりなくてのびのびやれた面はありました。だから未だに人間関係の煩わしさの免疫がなし(笑)。
Commented by koharu50 at 2020-07-05 13:15
> みどりさん
福澤幸雄って素敵だったですね。それらしき動画を検索して見てみました(同じものかどうかはわからないですが)。
カルメンマキ!!なんと懐かしい。動画に流れる歌がとてもよかった。一度だけ新宿のゴールデン街でマキさんを見かけましたよ。
あの頃・・・いろいろ思い出します。
Commented by koharu50 at 2020-07-05 13:17
> アッコさん
お読みいただいてありがとうございます。
あの頃の輝きとは違いますが、いつまでも輝きをなくしたくはないですね。
Commented by pommemama at 2020-07-05 15:41
小春さん
貴重で素敵なお話を教えていただきありがとうございました。まるでドラマのストーリーのようです♡
私の中の小春さん像が、また少しリアル化いたしました(^.^)!
Akiko
Commented by koharu50 at 2020-07-05 19:51
> Akikoさん
お読みいただきありがとうございます。
ははは、ドラマのようなストーリーならまだまだありますわよ。

今週は一時帰国なのでしょうか?
気をつけて、でも楽しんで久々の日本を。
Commented by gallery-asaba at 2020-07-06 00:19
竹、笹リレーにご参加下さいまして、ありがとうございます。
何かとても素敵な小説を読んでいる様な、その様な気分になりました。
登場するお名前が、皆さま個性派、実力派俳優の方達ばかりで驚きです。
笹寿司を作っている日本料理店での素敵なお出会い、
小春さんのキラキラ輝く若き日の思い出を、とても眩しく感じながら読ませて頂きました。
小春さんの今あるお洒落へのこだわりは、その方の影響が大きくていらっしゃるのですね。
改めて若いって素晴らしいと、自分の事も懐かしく振り返るきっかけとなりました。
小春さんがその方の事を時々思い出されます様に、きっとその方もお元気で小春さんの事を思い出していらっしゃる事と思います。
とっても素敵なお話を、ありがとうございました。


Commented by koharu50 at 2020-07-06 09:22
> 浅葉さん
ご丁寧なコメントをいただきましてありがとうございます。
若き日の思い出を整理してまとめられたのも竹、笹リレーの企画のおかげと思います。
浅葉さんの竹、笹のお道具は素晴らしいののばかりで勉強させていただきました。
今後も書けるときはリレーに参加するつもりです。
リレーのグッドアイデアお待ちしています。
Commented by NT-patientless at 2020-07-06 13:17
昨日、笹寿司屋若旦さんとの恋愛模様を読ませてもろた時
誰かを思い出しそうで思い出せへんかったんだす
それが今日「あっ、村岡花子と沢田さんや!」って気付いて・・・

男女の間なんてもんは当時付き合ぉたはった二人にしか分からへん
その当事者でさえ相手の心の中は読めしませんやんね?
そやしNTが小春さん&笹寿司若旦さんの関係に
村岡&沢田をオーバーラップさせたんは
多分に別れた後の其々女性陣の女っぷりの上がり方、
それに引き換え影の薄い男性陣・・・って想像したしやろか🙄

NTがブログ終了してへんかったら
「笹若さん・・・その後」ってフィクションのスピンオフ絶対書いたやろな
ほんで笹若さんの奥方にはサンダースホーム・沢田美喜ばりの女性をあてがうねん(笑)

その前に、小春さんに「村岡&沢田の関係とは全然似てない!」って
苦笑いしながら否定されそうやけどね🤭
Commented by koharu50 at 2020-07-06 17:16
> NTさん
ははは!!
NTさんらしいすごい想像力ですね。爆笑で読みました。
村岡花子は知ってますが、私、ドラマよく見てないんで沢田って人のことあまり知りませんねん。
ちょっと調べたら外交官で控えめな人なのかしら。はい、私の付き合っていた若旦はんもそんな感じでしたよ。もう少し押しの強い人だったなら今頃私は日本料理屋のおかみか??? いえいえ、多分つとまらなかったと思いますよ。お母さんが超うるさそうな人だったし。沢田美喜なら大丈夫でしょう(笑)。NTさん続編作ってください、ふふふ。

偶然ですが、村岡花子さんって私の高校の先輩らしいです。
Commented by yokkofire at 2020-07-07 22:13
わあ、なんだか小説を読んでいるみたいな
感覚になって、読み入ってしまいました

神田川の世界

あなたはもう忘れたかしら♬

小春さんの青春

なんだか、私もあの頃の事思いだしてしまいました

今日の記事は、とても心に染み入りました
Commented by koharu50 at 2020-07-08 00:56
> yokkoさん
神田川って流行りましたね。
大好きな歌でした。
Yokkoさんの神田川は?
by koharu50 | 2020-07-05 08:00 | 美しいもの | Comments(16)

自分の好きなファッションでいつもニコニコしていたい。おしゃれの法則?それも大切にするけれど、冒険も大好き。諦めちゃダメ、おしゃれはいくつになっても私を前向きにしてくれる。


by 小春