
最近のおしゃれ本のなかで、断トツに売れたのは、ご存知「フランス人は10着しか服を持たない」(ジェニファー.L.スコット)。
昨年上半期にはニッパンなど取次のベストセラーで1位に輝き、年間では又吉直樹氏の「火花」に1位を譲って2位に甘んじたものの、おしゃれ・ファッション分野の本がこれほど売れたのはかつてなかった。
実はこれ、日本人にはまったく関係ない世界。つまり、パリのハイソな家庭にホームステイしたアメリカ女性が描く女主人「マダム・シック」の物語。
手の届きそうもない世界のお話だからこそ、日本人には新鮮だった。
もし、これが京都か何かの旧家の奥様の話だったらどうだろう。まったく売れないとは言わないけれど、こんな大ベストセラーにはならなかったはずだ。
内容もすごくわかりやすい。
洋服はたくさんいらない。いいものだけを選んで10着で十分。
なかなかできることではないが、立派なフィロソフィーがある。

よく似たフィロソフィーを持つ日本の本。スタイリストの地曳いく子さんが書いた「服を買うなら捨てなさい」。
外出する時、一度着た洋服が気に入らないと着替えたとしたら、その服はもういらない。捨てなさい。
なんと気持ちがいい。
実際にはできないけれど、この位の思い切りがないとおしゃれなんかできないのかも。
ちょこちょこ値ごろ感のある洋服を買うのをやめて、高くても本当に気にいったいいものを買う。
これもできそうでなかなかできないこと。
洋服ではなくて、靴や靴下にお金をかける。
はい。わかっているんですけどねー。
といった具合に日本女性のお洒落感覚をバサバサと切っていく。
この通りに実行できたなら、お洒落度は着実に上がる。
ちょっとだけ残念なのは、作者が現況ではややふっくらとしてしまい、コーデの写真があまりカッコよくないこと。
自戒を込めて言うと、お洒落の根幹はシェイプされた肉体でしょう、やはり。

もう一冊、最近出版された人気ブロガーのmadameHこと佐藤治子さんの「普通の服をはっとするほどキレイに着る」
スタイリストではなく、デザイナーの方が書いた本だけに、他のおしゃれ本とは一線を画している。
まず「自分の3サイズを知りなさい」。
なんでもないことのようだが、案外正確に知っている人は少ない。私も含めて。
そして自分のサイズにあった服を着る。
気にいったコーデは「制服」として多様する。
チョイスしている製品もブランド品の高いものからユニクロのプチブラまで。ただし、靴はいいものを。ちなみに彼女はロジェ・ヴィヴイエのコレクターだ。
強いメッセージ性はないが、誰もが真似できそうなmadame流のおしゃれフィロソフィーが語られている。それも上から目線ではなく、人柄の良さが滲み出ている。おすすめ。
最後に、私は20代後半から約15年間、単行本の編集者をしていた。
その時の経験によると、日本ではおしゃれの本は相対的に売れない。
私も1冊だけメンズのおしゃれノウハウ書の編集を担当したことがあるが、売行きはそこそこだった。
日本ではおしゃれの本というと「着せ替え絵本」のような体裁が主流。これでは売行きは限られてしまう。
「フランス人は10着しか服を持たない」以上の日本人によるベストセラーは出ないかなあ。
どなたかが書くことを期待。